大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(行コ)23号 判決

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、富士吉田市に対し、一億一〇六五万七四〇〇円及び内金九六四七万二九五〇円に対する平成一〇年三月八日から、内金一四一八万四四五〇円に対する同年六月一二日から各支払済みに至るまで年五分の金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、前市長の時代に予定されていた新市立病院の建設を見直し、建設地を既存の市営スポーツセンター総合グランド用地に移動し、右総合グランドを廃止して新たに市営の総合グランドを他に建設するという内容の建設計画を立てた際の市長であった被控訴人に対して、富士吉田市の住民である控訴人らが、既存市営グランドの廃止についての市議会議決の欠缺、新市立病院建設計画の見直しについての裁量権の逸脱等の違法を主張し、かつ、新市立病院建設のために締結した基本設計契約その他の施工のための各契約の代金支払が違法な公金支出であるとして、その合計一億一〇六五万七四〇〇円を富士吉田市に支払うことを求めた住民訴訟である。

第一審は、控訴人らの請求を全部棄却した。

二  争いのない事実、争点及び当事者双方の争点に関する主張は、次のとおり補正、付加するほか原判決「事実」欄の第二ないし第四記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決一〇頁三行目の「に基づき」の次に「右各支出の差止め又は市長に対する金銭返還請求を求める」を加える。

2  原判決一三頁一行目の「二項一三項」の次に「〔現行法同条一四項〕」をそれぞれ加え、同一一行目の「一三億円」を「一三億」に、同一四頁九行目冒頭から同一五頁一行目の「としても、」までを「なお、また、本件各支出の違法は、本件体育施設の廃止を前提とした本件建設計画2の違法も承継している。」に、同一六頁九行目の「建設をやめ、」から同一一行目末尾までを「建設計画を中止することは違法であり、これと一体の関係にある上吉田地区における本件体育施設の廃止、その跡地における新病院の建設及び土丸尾地区の新グランドの建設」にそれぞれ改める。

3  当審において付加した当事者の主張

(一) 控訴人ら

(1) 地方自治法二四四条の二第二項違反について

地方自治法には公の施設の概念が採用されていることに照らし、本件体育施設の「廃止」は、住民に廃止と同視し得る不利益があるか否かというあいまいな基準で決するのではなく、物的設備の滅失を中心として考えるべきである。本件体育施設は、総合グラウンドその他の施設が一体となり、場所的に特定された物的施設として個性を有しているのであり、その同一性を失わせるか否かで「廃止」の有無を判定すべきである。また、本件体育施設の廃止と本件新グラウンドの建設は、巨額の予算の必要、双方の施設の距離的乖離、本件新グラウンド付近の駐車場確保の困難性などにより、住民にとって不利益なものである。

(2) 裁量権の逸脱について

本件建設計画2を実施することによって、本件建設計画1に基づいて既に支出した巨額の公金が無駄になるのであり、これにより市の財政運営に著しい困難をもたらすこととなり、市長に与えられた予算編成及び執行についての裁量権の範囲を著しく逸脱し濫用するものである。

(3) 随意契約の違法性について

前市長の時代にプロポーザル方式により日建設計との間で随意契約を締結したことに合理性があったとしても、その後三年半経過した後にも日建設計に優位性があるとは限らない。上吉田地区に移動した場合の新病院は施設の概要、周辺環境等の立地条件が大きく異なっており、同一内容の病院とはいい難い。

本件(一)契約を随意契約として締結したことにより、富士吉田市は少なくとも一四〇〇万円の損害を被っている。富士吉田市が城山東地区に建設しようとしている新病院の実施設計額は一億一三九二万五〇〇〇円であるから、基本設計の代金額はその三〇パーセント相当額である三四〇〇万円余とみるべきである。また、土丸尾地区の基本設計及び実施設計はいずれも実施されているから、本件建設計画2における新病院の基本設計はそのまま利用できるのであり、基本設計料が減額されるのは当然である。基本設計業務が完了したことを前提とすると、次の基本設計業務は通常七〇パーセントの業務量で済み(甲二九)、業務割合の多い情報収集・準備及び条件設定の業務がそのまま利用できることを考慮すると、さらに右七〇パーセントは減少する。したがって、本件(一)契約の代金が四八八二万五〇〇〇円であれば、業務量はその七〇パーセントに止まるのであるから三四一七万七五〇〇円で足りた筈である。

(二) 被控訴人(随意契約について)

(1) 病院の基本設計は、設計者の独創力、技術力が重要な意味を持つから、随意契約によることが一般に承認されている。日建設計は、前市長の時代における新病院の基本設計についてのプロポーザルに免震構造を提案して契約の相手方として選ばれた実績を有するから、新病院の特性を理解し、新病院に期待される事項等についての情報や資料を有することが容易に推認され、本件(一)契約を締結したことに不合理はない。

(2) また、日建設計を相手方とする場合は、新規の業者と契約する場合に比して、設計作業工程の短縮、経費の節減等を図ることができ、時価に比して著しく有利な価額で契約を締結することができると見込まれた。したがって、地方自治法施行令一六七条の二第一項五号の事由もあるのである。

(3) 城山東地区に建設される新病院の実施設計料一億一三九二万五〇〇〇円は基本設計料を含んでいない。一般に基本設計と実施設計とを分ける場合は、基本設計料三〇パーセント、実施設計料七〇パーセントという割合とする考え方がとられている。したがって、実施設計料の三〇パーセントをもって基本設計料と認めることはできない。

理由

一  本件体育施設の廃止に関する地方自治法二四四条の二第二項違反の主張について

当裁判所も控訴人らの本件体育施設の廃止が地方自治法二四四条の二第二項、富士吉田市議会の議決に付すべき公の施設に関する条例(昭和五一年一〇月九日条例第四二号)二条、富士吉田市体育施設条例(昭和五二年九月二八日条例第二二号)二条の各規定により市議会の特別決議を経なければならないという主張は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか原判決「理由」欄の一のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二三頁八行目冒頭から同一一行目末尾までを次のとおりに改める。

「 ところで、前記争いのない事実(第二・二・2)によれば、本件建設計画2においては、既存の本件体育施設そのものは廃止するが、同時に土丸尾地区に本件新グラウンドを建設するというものであるから、その新旧の各体育施設が同程度の規模、機能、利便性を有し、住民福祉の観点からも同程度の目的を達し得るものであれば、利用する住民の立場で見れば、実際には体育施設が代替移転したというにすぎず、従前と同様の利用を続けることができるものと認められる。したがって、右のような旧施設の廃止と新施設の建設とを同時に行う場合において、旧施設の廃止をもって地方自治法二四四条の二第二項に規定する『廃止』に当たるとするには、新施設の建設をもってしても、旧施設が有していた規模、機能、利便性が損なわれ、住民福祉の観点からも同程度の目的を達し得ない場合であって、実質的に見て、新施設の建設にもかかわらず旧施設の『廃止』と同等の不利益又はこれに準ずるような不利益が住民に生ずる場合を指すと解すべきである。控訴人らは、専ら物的施設の存続の観点から『廃止』を判断すべきであると主張するが、地方自治法二四四条の二第二項が右の『廃止』に、議会の特別の議決を要求した趣旨には、住民福祉の保護もあり、その趣旨にかんがみれば、必ずしも物的廃止のみに着目することは相当ではない。」

2  原判決二四頁三行目の「挾んで」の次に「比較的」を加え、同八行目の「右移転に際し、」から同九行目末尾までを「本件新グラウンドは、その規模、機能、利便性などの点において廃止する本件体育施設に優り、住民福祉の観点からも同程度以上の機能と利便性を有するものとして建設が計画されていたものと認められる。そうすると、前示の観点に照らし、本件体育施設の廃止と本件新グラウンドの建設を同時に行う限りは、体育施設の代替移転と呼ぶのがふさわしく、公の体育施設の『廃止』に当たるとは必ずしもいえない。控訴人らは、巨額の予算の必要、双方の施設の距離的乖離、本件新グラウンド付近の駐車場確保の困難性などを考慮すると、住民福祉に反すると主張するが、巨額の予算を要することは本件建設計画2そのものの当否に関する事柄であって、これがため廃止と同視し得る利便性の欠如をもたらすとはいえず、双方施設の距離的乖離、本件新グラウンド付近の駐車場確保の困難性については、これらによる利便性の減少が住民福祉に反する程度のものとまでは認めることはできない。」に改める。

二  裁量権の逸脱について

当裁判所も本件各契約の締結及び本件各支出が市長の裁量権の範囲を逸脱して違法であるという控訴人らの主張は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか原判決「理由」欄の二のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二六頁一行目の「したがって、」から同二七頁六行目末尾までを次のとおりに改める。

「 地方自治法二四二条の二第一項四号前段の損害賠償請求は、同条同項の一ないし三号の請求が抗告訴訟に類似する側面をもった訴えであるのとは性格を異にするものであって、当該職員の財務会計上の行為が地方公共団体に対する関係で法的に許容されず違法であるため、地方公共団体に損害の回復を認めるものである。そして、その違法性を論ずるについては、財務会計上の行為の原因行為の違法性の反映による総体的違法性についても検討すべきであるが、原因行為の違法性が後に続く財務会計上の行為の違法性を招来するものであるかどうかは、原因行為が財務会計上の行為か否か、原因行為の機関が財務会計上の行為の機関と同一であるか否か、財務会計上の行為の機関が原因行為の機関の監督指導等をする権限を有するか否か、原因行為が財務会計上の行為と密接不可分な関係にありその適否を一体的に判断し得るか否かなどを考慮し、同法二四二条、二四二条の二第一項が財務会計上の行為に限定して監査、審理の対象とした法意を尊重してすべきである。」

2  原判決三〇頁六行目の「プロポーザル方式」を「公募型プロポーザル方式」に、同一〇行目の「ところ、」の次に「右の公募に応じた」を加え、同三二頁七行目の「〇〇」を「〇〇」に、同三三頁二行目の「原因行為」を「原因行為としての本件建設計画2」に、同五行目の「の中における、」を「行政施策の策定に関する計画の決定であり、本件各契約の締結及び本件各支出との関係では、」にそれぞれ改め、同三四頁一行目冒頭から同三七頁四行目末尾までを次のとおりに改める。

「 しかしながら、本件新グラウンドを土丸尾地区に建設することは、上吉田地区の本件体育施設の跡地に新病院を建設することとした結果でもあり、本件建設計画2の中においては、新病院の建設と本件新グラウンドの建設とは密接に関連しているものと認められるから、これらを含んだ本件建設計画2の策定自体をもって本件各契約の締結及び本件各支出の行為に対する原因行為と捉えるのが相当である。

4  本件各契約の締結及び本件各支出の違法性について

(一)  前記争いのない事実と前記認定事実によれば、本件各契約締結及び本件各支出は、まさに本件建設計画2の策定によりこれを実施するために行われたものと認められるから、前示のとおり、本件建設計画2の策定は、全体として本件各契約締結及び本件各支出の原因行為となるものと認められる。しかしながら、本件建設計画2は、前記認定のとおり、住民の要望を受けて富士吉田市の審議会、関係自治団体等で構成する北富士県有地懸案対策協議会、市長が新設した検討委員会、定例市議会における予算審議を経て、慎重に策定された協働的行為によって成立した行政施策であり、その実施のための財務会計上の行為たる本件各契約締結及び本件各支出行為とは、いわゆる段階的行政処分等における違法性の承継の問題が生ずる密接不可分の一体の関係にあるものとはいえず、また、行為の主体機関を実質的に異にし、財務会計上の行為の機関が原因行為の機関の監督指導等をする実質的な権限を有しているとはいえないこと、原因行為が地方自治体の議会の審議を経てその当否が政策的に決定されたものであることなどを考慮すると、原因行為に著しい不合理があり、そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵をもたらして最終的に財務会計上の行為自体の違法性を招来している場合に当たらないというべきである。

(二)  因みに、地方自治体である富士吉田市において、やや老朽化した旧病院に代えて新病院を建設するか否か、建設するとすればどこに建設するかに関する決定は、その医療行政の重要な政策判断であると解され、本来的に行政主体としての富士吉田市が究極的には住民の多数意思を反映して行う行政裁量権の範囲内の事項であるから、その決定の内容、当否について一部の住民からの様々な批判があり得るとしても、その行政施策の内容が明らかに法規に違反し、又はその意思決定手続が法規(内部規則等を含む。)に違反し、行政施策の決定として明らかに無効又は不成立といい得るものでなければ、その政策決定を違法と認定することはできない。

前記認定事実によれば、被控訴人は、富士吉田市長として新病院の建設予定地の見直しを公約にして市長に当選し、市長に就任した後約半年間各自治会から市民の意見を聞き、検討委員会を新設して審議を行わせ、富士見バイパス沿いの民有地の借上げなどの計画をも実行して失敗した後に、本件建設計画2を策定するに至ったものであり、本件建設計画2の実施に関する費用を平成九年度一般会計予算案に計上して議会の承認を受けたというのであるから、被控訴人が行った本件建設計画2の策定の手続は、違法というべき行為を含んでいるとはいえない。控訴人らは、前市長の策定した本件建設計画1を変更して本件建設計画2を実行することは、本件建設計画1について支出された合計一三億九〇〇〇万円を無駄にし、二〇億七〇〇〇万円の補助金の交付の余地をなくし、本件体育施設のために受領していた約二億三〇〇〇万円の補助金の一部の返還が強いられるなど、富士吉田市に巨額の損失を発生させる内容となっていると主張するが、前示の行政施策の変更において、どの程度の損失が生ずるか、これらの損失を回避すべきか、これらの損失にもかかわらず本件建設計画2を実施することに富士吉田市の行政施策として必要性ないし利便性があるか否かについての判断は、いずれも行政裁量権を有する富士吉田市が行政主体としての正規の手続により決定すべき政策判断であり、その決定の内容に明らかな違法があり、又は決定の手続に違法がない限り、内容の当不当を根拠に本件建設計画2の策定を違法と判断することはできない。控訴人らの主張する本件建設計画2の策定に伴う損失は、それが富士吉田市の財政上どの程度の健全性阻害要因となるものかを認めるに足りる証拠はないが、これをもって直ちに、地方自治法二条一三項(現行法同条一四項)、地方財政法二条ないし四条の規定に違反しているとまではいえない。

したがって、本件建設計画2の策定の違法を前提として本件各契約締結及び本件各支出に違法があるという主張は採用することができない。

(三)  また、控訴人らは、本件建設計画1を変更して本件建設計画2を実行したことにより、富士吉田市においては、本件建設計画1について支出された合計一三億九〇〇〇万円の支出効果を十分に受けることがなく、二〇億七〇〇〇万円の補助金の受領の余地を失うなどの不利益が発生したとして、財務会計上の行為としての本件各契約締結及び本件各支出が市長としての裁量権の範囲を逸脱すると主張する。

本件建設計画2の実施に関しても右のような補助金交付の余地があるのかどうかについてはこれを認めるに足りる証拠がないが、補助金の受給ができなくなったとしても、前示のとおり、本件建設計画2の実施は本来的に富士吉田市の医療行政上の施策の一環として行われ、そこには違法がないことなどの事情を総合すると、本件建設計画2の実施の必要度、行政施策としての価値判断は、右の補助金の受領の可否のみでは単純に決せられるものではなく、これに伴う本件各契約締結及び本件各支出が、市長としての財務会計上の裁量権の行使を誤ったと認定することはできない。したがって、控訴人らの主張する本件各契約締結及び本件各支出が予算編成及び執行に関する裁量権の範囲を逸脱しているとの主張も理由がない。

(四)  このようにして、被控訴人の本件各契約締結及び本件各支出に関する裁量権逸脱の違法があるとする主張は採用できない。」

三  随意契約について

当裁判所も被控訴人が市長として日建設計との間で本件(一)契約を随意契約として締結したことには違法はないと判断する。その理由は、次のとおり補正、付加するほか原判決「理由」欄の三のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決三九頁六行目の「しかし、」から同四〇頁八行目末尾までを次のとおりに改める。

「 もっとも、右にいう競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難である場合とは、右の契約締結に関する従前の経緯、建設計画における手続の特殊性など諸般の事情を総合勘案して、競争入札の方法によることが著しく不相当である場合も含まれると解するのが相当である。」

2  原判決四〇頁九行目の「本件契約」を「本件(一)契約」に、同四一頁三行目の「プロポーザル方式」を「公募型プロポーザル方式」にそれぞれ改める。

3  原判決四一頁三行目の「前市長は、」から同四二頁六行目末尾までをつぎのとおりに改める。

「乙六号証、八号証と弁論の全趣旨によれば、公募型プロポーザル方式は、あらかじめ説明書の交付を受けて参加する意思を表明した者から技術提案書の提出を受け、選定委員会の選定審査を行ったうえで随意契約としての契約を締結すべき者を決定するという手続によっていることを考慮すると、最終的には随意契約という形式で契約締結を行うものの、実質的な指名競争入札としての要素を取り入れたものであり、前市長は、公平を保つため、敢えて公募型プロポーザル方式を採用することとし、八社の中から、特に免震構造について技術的に優れている日建設計を選んだものであるから、その判断は一応合理性を有するものといえる。

前記二・2(一)ないし(八)の認定事実によれば、被控訴人は市長として、本件建設計画2により新病院の建設場所が土丸尾地区から上吉田地区に移動したものの、建築内容は概ね同一であることから、前市長が合理的な方法で選定していた日建設計との契約締結を継続することとしたものと推認される。

前記認定事実と弁論の全趣旨によれば、被控訴人が市長として日建設計との間で本件(一)契約を締結することについては、前市長に行った公募型プロポーザル方式による設計者選択の成果を引き継ぐことが便宜であること、新たに競争入札の手続若しくは指名競争入札の手続を実施することは相当ではないことなどの事情があったものと認められ、従前の経緯、手続の特殊性、同様の手続反復の省略などの事情を総合して勘案すると、再度競争入札若しくは指名競争入札の手続を行わなければ、地方自治法施行令一六七条の二第一項に反するとまではいえない。また、前示のとおり、被控訴人が日建設計との間で本件(一)契約を締結することは、前回の契約代金に比して二四・三パーセントの代金減額を実現することができたものと認められるから、同法施行令一六七条の二第一項五号の『時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。』にも該当すると認められる。

したがって、被控訴人が市長として日建設計との間で本件(一)契約を随意契約として締結したことに地方自治法上の違法はない。控訴人らは、この点について、本件(一)契約を随意契約として締結したことにより少なくとも一四〇〇万円の損害が生じたと主張する。しかしながら、控訴人らの主張する右損害額は、後日実施された城山東地区の新病院建設の実施設計料額の三〇パーセントを適正な基本設計代金額と推認して算定されたものであり、一般に行われている全設計料額中の基本設計料三〇パーセント、実施設計料七〇パーセントという割合にするとの考え方を誤解しているものか、これに反しているものであり、右の方法によって本件(一)契約における設計料額が高額にすぎるということはできない。城山東地区における新病院の実施設計は通算すると三度目の設計であり、ある程度前二回の設計行為の成果を活用し得るものであったと推認されるが、本件建設計画2の実施時期においては、設計料の有利性を判定することができる基準としては本件建設計画1における設計料の額であったといわざるを得ず、本件基本設計契約の設計料の設定に一四〇〇万円の損害があったという控訴人らの右の主張は到底採用することができない。」

四  関係自治体との合意違反について

当裁判所も本件建設計画2の策定実施が富士吉田市が関係自治体と交わした合意に違反して違法となるものではないと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか原判決「理由」欄の四のとおりであるから、これをここに引用する。

原判決四四頁五行目冒頭から同六行目の「認められる。」までを「しかしながら、右の合意の内容は、地元共通の要望である新病院を土丸尾地区に建設することを関係自治体が了承するとしたものに止まり、右の合意により、地元関係自治体の病院建設に対する期待が表明されているといえるものの、以後富士吉田市においてこれを土丸尾地区から他地区へ変更することを許さず、病院建設地について富士吉田市を拘束する合意であると解することはできないし、本件建設計画1を変更し、本件建設計画2により上吉田地区に病院建設をするような程度の変更を許容しない趣旨のものと解することはできない。」に改める。

五  結論

以上によれば、控訴人らの本件請求は理由がなく、これを全部棄却した原判決は正当であるから、本件控訴はいずれ理由がなく、これらを棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 裁判官 梅津和宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例